出生手当が出生率、労働参加率に及ぼす影響
ひと月あたり150ユーロの出生手当による出生率、労働参加率への効果
- 評価指標
出生率
- 評価指標
労働参加率
ポイント
女性の出生行動と労働参加の構造モデルを推定し、月150ユーロの出生手当を導入した際の効果についてシミュレーションを実施。
就労・非就労に関係なく支給した場合、出生率が3.3パーセントポイント上昇し、労働参加率は0.5パーセントポイント減少する試算となった。
母親が就労していない世帯に支給を限った場合、出生率は2.2パーセントポイント上昇し、労働参加率は1パーセントポイント減少する試算となった。
出生率への影響は、出生順位が高いほど効果が大きいが、母親の年齢が高いと効果が弱まる傾向にあった。
文献選定/レビュー作成
背景
- 女性の賃金が上がると出生率が減少する一方、その他家計収入が上がると出生率が上昇するという傾向が、多くの研究で見られた。
- 将来の出産を望む女性は、賃金や税額、控除、補助金等を調整するために人的資本投資を控える傾向にある。つまり、賃金と出生率の間には内生性があるため、構造モデルによる推定によって対処した
介入
- ひと月あたり150ユーロの出生手当。
- シミュレーションによる仮想的な政策評価であり、実際に行われた政策ではないが、必要総額はフランスのGDPのおよそ0.3%にあたり、実行可能な範囲の上限であると想定されている。
評価指標
- 出生率および労働参加率。
- フランス生まれで、1~3人目の出生の可能性がある女性について補助金政策後の指標をシミュレーションして計算。
分析方法
- 直接観察できない市場賃金のモデル、出産と労働参加の離散選択モデルを推定し、シミュレーションを実施した。内生性には操作変数法で対処している。
証拠の強さ
- SMS:その他
- 根拠
- 賃金・労働参加および出生に関する構造モデル。
- フランスの複雑な税制を適切に考慮に入れた上で算出した可処分所得や賃金を用いている。
- 就業の有無・出産の有無で4つにグループ分けした上で、シミュレーション用の構造モデルを作成。
- 第一子と第二子の性別が同じかどうかのダミー変数を操作変数とすることで、賃金と出産行動の内生性に対処。
- この操作変数は、多くの家庭が男子と女子両方の性別の子どもを持つことを好む傾向に基づいている。
- 性別は実質ランダムに割り振られ、1、2人目の子どもが同じ性別だった場合、3人目の子どもを持つ可能性が高まるため、操作変数として適切である(Angrist and Evans, 1998)。
- 出産のモデル式のパラメターは、労働の不効用や子どもを持つコストをとらえている。
- 労働の不効用や子どもを持つコストは、母親の年齢・婚姻状態・学歴・子どもの年齢や人数・家族構成などをもとに理論と整合的な形で計算。
- 労働供給関数についても、ミンサー型賃金関数や、金銭的インセンティブに対する労働供給の弾力性を用いて、モデルのパラメターを算出。
- ミンサー型賃金関数は、学歴等を考慮して賃金を推定する関数であり、労働供給の弾力性はスキル水準や年齢をもとに計算されている。
サンプル
- 構造モデルの推定に用いたデータ
- フランス労働統計調査から、フランス生まれかつ40歳以下で、子どもが2人以下の女性、N=16891名を抽出した。
- 公務員(会社員と異なる報酬体系)・2年以内に学生だった女性は除く。
結果
- 以下の設定でシミュレーションを実施
- 月150ユーロの出生手当(GDPの0.3%相当)
- 所得制限なし
- 就労しないことを条件とする場合と、就労しても支給される場合の2通りの場合をシミュレーション
- 支給条件がない場合は、全体として出生率が15.5%から18.8%と3.パーセントポイント上昇し、労働参加率は49.1%から48.6%に0.5パーセントポイント下落した。
- 就労していないことを支給条件とすると、出生率は2.2パーセントポイント上昇し、労働参加率は1パーセントポイント下落した。
- 母親の年齢が高いほど出生率の増加幅は小さい傾向(32歳以上の無子女性については負の効果に転じていた)。
- 第3子については、第1、2子のおよそ2倍と、出生率への影響が大きい。
研究の弱点
- パートタイム労働については捉えられていない。
- 子どもに関する補助金のもう一つの柱である、育児補助金(出生直後ではなく、中学生以下の子どもの教育支援等の目的で与えられる補助金)の効果については考えられていない。
書誌情報
- Laroque, G., & Salanié, B. (2014). Identifying the Response of Fertility to Financial Incentives. Journal of Applied Econometrics, 29(2), 314–332. https://doi.org/10.1002/jae.2332