児童手当
イスラエルにおける児童手当改革の追加的出生への影響
- 評価指標
2人以上の子どもをもつ母親の追加的な出生
ポイント
文献選定/レビュー作成
背景
- 世界的に低出生率が問題となっており、児童手当含め各国が何らかの対応を迫られている。
- 少子化対策を考える上で、児童手当と出生行動の関係を明らかにすることは重要である。
介入
- 主に2001年と2003年のイスラエルにおける児童手当改革に注目。
- 2001年の概要:5人目以降の子どもへの支給額が約40%上昇(1年半ほどで廃止)。
- 2003年の概要:それ以前までの、第3子以降に給付額が大きく上昇する仕組みから、出生順位に関係なく定額が給付される仕組みへと変更になった。
- 介入変数としては「次の子どもを産んだ際に、その子どもが18歳(受給対象となる最後の年齢)になるまでに受け取ると思われる児童手当の割引現在価値」を使用している。「割引現在価値」とは、将来に受け取る金額が現在すぐに受け取れるときに、どの程度の価値となるかの指標である。
- その際、(1)すでにいる18歳以下の子どもの数(2)その子どもたちの年齢分布(3)当該時点において採用されている児童手当制度(4)当該時点において告知されている将来の児童手当制度の4つの要素によって割引現在価値が変化することが考慮されている。
評価指標
- すでに2人以上の子どもをもつ母親の追加的な出生確率
分析方法
- 線形確率モデル(グループと時間の固定効果を含む実質的な差の差推定)
証拠の強さ
- SMS:3
- 根拠
- グループと時間に関する固定効果を統御しており、実質的な差の差推定がなされている。
- グループについては、子どもの人数、子どもの年齢分布、時期で分類されている。
サンプル
- イスラエル中央統計局(ICBS)の非公開データを使用。
- (1)イスラエルの(2)2人以上の子どもをもつ(3)45歳以下の(4)結婚している(5)女性の(6)1999年から2005年の範囲での(7)約30万人分の個人レベルのパネルデータを使用。
- 「人年」単位で約120万の観測値(アンバランスド・パネルデータ)。
結果
- (1)児童手当が増えると2人以上子どもがいる母親の追加的な出生確率が上がる。
- (補足1)
- サンプル全体での分析において、例えば、新たに生まれる子どもが18歳に至るまでの期間を通じた月額150NIS(=約3750円)の児童手当の増額は、0.99%ptの出生確率の上昇をもたらすと推定された。
- NISはイスラエルの通貨単位であり、1NIS = 約25円(2003年当時)。
- (補足2)
- 児童手当の増額が追加的出生行動に与える正の効果は各サブグループ(宗教、エスニシティ、所得層、年齢層)においても成立した。
- 特に、所得階層でみると低所得層ほど効果が高く、また母親の年齢別では30歳前後で特に高かった。ここでの低所得層とは、母親と父親の合計収入が貧困線を下回る水準のグループについてを指す。
- (2)弾力性の観点からは、サンプル全体の分析において、児童手当を1%増やす(減らす)と、妊娠の確率が0.192%上昇する(減少する)と結論づけられた。
- (補足1)
- 前述の弾力性は、次のような場面を想定して計算された値である。
- 2人の子どもをすでにもつ母親が、新たに3人目の子どもを出産する場合を想定。
- 加えて、イスラエルにおける2002年から2003年の制度変更と同様の状況を想定。つまり、3人目の児童手当が月額300NIS(=約7500円)から月額150NIS(=約3750円)へ減少するといった場面を考えている。
- (補足2)
- 所得階層に注目すると次のことがいえる。前述の通り、低所得層ほど児童手当増額による追加的出生確率の増加幅自体は相対的に大きい。
- しかしながら、本論文で用いられたデータでは低所得層ほど元々の出生率が高い傾向にあり、元々の出生率に対する増加の割合自体は小さく推定された。結果として低所得層ほど弾力性自体は小さい値として推定された。
研究の弱点
書誌情報
- Cohen, A., Dehejia, R., & Romanov, D. (2013). Financial Incentives and Fertility. The Review of Economics and Statistics, 95(1), 1–20. https://doi.org/10.1162/REST_a_00342