母親への児童手当・税額控除・保育補助金・育休給付金
出産をめぐる男女間の交渉モデルに基づく政策シミュレーション
- 評価指標
出生率(母親への児童手当)
- 評価指標
出生率(税額控除)
- 評価指標
出生率(保育補助金)
- 評価指標
出生率(育休給付金)
ポイント
出産に対する男女の意欲に差があると、出産が起こりにくくなることが、記述的分析から明らかになった。具体的には、女性の出産意欲が低い場合が多い。
国際比較からも、男女での育児負担率が平等に近い国ほど出生率が高い傾向が示された。
男女間での出産に関する交渉モデルを用いたシミュレーションの結果、母親の育児負担を軽減する政策の効果が大きいと判明した。
具体的には、母親のみを対象とした児童手当が、父親のみを対象とした手当に比べて、1ユーロあたり2.2-3.1倍の出生率引き上げ効果があることが明らかになった。
実現可能な政策の中では、税額控除や育休給付金よりも、保育補助金の効果が大きいことが判明した。
文献選定/レビュー作成
背景
- 先行研究では、家庭全体に及ぼす出産の利益と育児負担を考慮したモデルが用いられてきたが、家庭内での育児負担の分担も同様に重要だと考えられる。
- 近年、先進国における出生率の低下が顕著になっており、出生率を上昇させる政策が求められている。そのため、低出生率国のデータをモデルに適用し、政策の有効性を検証することが重要である。
介入
モデルを使って、以下の政策に関するシミュレーションを行い、合計特殊出生率を1.56から1.66へと0.1増加させるために必要なコストを算出する。各政策について、すべての子どもに支給、第2子以降に支給、第3子以降に支給する3つのケースを想定する。
- 児童手当を母親か父親のどちらかにのみ支給する仮想的な政策
- 税額控除(各親の労働所得に依存した補助金):男性の平均所得の方が高いため、父親への恩恵が大きい。
保育補助金(市場型保育の利用を補助):子どもの世話をする時間を削減し、女性に働く選択肢を与えるため、母親への恩恵が大きい。
育休給付金(子育てをして働けない母親に対する補助金):家にいる母親に働く選択肢を与えるが、補助金がなければ働いていた母親に労働をやめる誘因を与える。
評価指標
- 合計特殊出生率、合計特殊出生率を1.56から1.66へと0.1上げるために必要なコスト(ユーロ)
分析方法
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記述分析
- 男性と女性の出産意欲を問うアンケート結果をもとに、夫婦の出産意欲と実際の出産行動との関係について記述的に分析する。
- 国ごとに男女の出産意欲の差を縦軸、男性の育児分担比率を横軸としてプロットし、育児負担と出生率との関係を分析する。
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シミュレーション分析
- 男女間で出産するか否かについての意思決定過程をモデル化する。この交渉モデルにおいては夫婦の育児負担の配分を考慮に入れる。
- 交渉モデルを用いて、介入の欄に記載した4つの政策を導入した場合のシミュレーションを行い、費用対効果の高い政策を明らかにする。
- 夫婦が部分的コミットメントの下で、出産・育児負担・消費をめぐって交渉する。
- 部分コミットメントの仮定:将来の育児負担に関して、夫婦は出産前に部分的に約束できるが、その他の部分に関しては約束できない、または約束が信用できないとする。
- 具体的には、出産直後の期間に母親が家で子どもの世話をするか、市場保育を利用するかは、事前に夫婦が決めることができる。ただし、その後の負担の配分に関しては事前に約束できないとする。
- 出産・育児・消費はナッシュ交渉解によって与えられる。ナッシュ交渉解はパレート最適性を満たし、夫(妻)の効用を下げることなくして妻(夫)の効用を上げることができない、つまり資源を最大限活用した状態と言える。また、出産以外の選択肢として離婚を考慮した夫婦の効用最大化問題の解と一致する。
- 時間とともに出生に関する選好が変わることを反映するため、動学的な意思決定を仮定する。
証拠の強さ
- SMS:その他
- 根拠
男女の育児負担の配分を考慮に入れた交渉モデルで分析をしている。
- 低出生率の国に適合するようパラメータを設定している
- 記述分析から得た、夫婦の出産意欲の不一致を上手く再現できている。
サンプル
- Generation and Gender Programme(19カ国を対象とした縦断的データ)
- 19カ国の中で合計特殊出生率が1.5未満の国(オーストリア、ブルガリア、チェコ、ドイツ、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、ロシア)をモデルのパラメータ推定のために用いている。
結果
- 出産に対する男女の意欲に差があると、出産が起こりにくくなることが、記述的分析から明らかになった。具体的には、女性の出産意欲が低い場合が多い。
- 国際比較からも、男女での育児負担率が平等に近い国ほど出生率が高い傾向が示された。
- 男女間での出産に関する交渉モデルを用いたシミュレーションの結果、母親の育児負担を軽減する政策の効果が大きいと判明した。
- 具体的には、母親のみを対象とした児童手当が、父親のみを対象とした手当に比べて、1ユーロあたり2.2-3.1倍の出生率引き上げ効果があることが明らかになった。
- 実際に実現可能な税額控除・保育補助金・育休給付金の中では、母親の育児負担を減らす保育補助金の効果が大きい。
研究の弱点
- 同性カップル、精子提供を受けた独身女性、養子を迎えた夫婦などは考慮できない。家族のあり方が多様化する中で、これらの家族に関する研究は今後重要になると見込まれる。
書誌情報