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出産一時金の導入

ケベック州における出産一時金導入による出生率への影響

評価指標

効果

証拠の強さ

評価指標

合計特殊出生率

効果
証拠の強さ
評価指標

15-34歳の女性がいる世帯が6歳未満の子どもを持つ確率

効果
証拠の強さ

ポイント

  • 政策を導入しなかった場合に比べ、全体の合計特殊出生率は0.145%ポイント(平均値に対して9%)増加した(統計的に有意)。出生順位別に見ると、第3子以降の反応が大きかった。

  • 出産一時金が導入されてから2-8年の間、15-34歳の女性がいる世帯が6歳未満の子どもを持つ確率は、政策が導入されなかった場合と比べて5.3%ポイント(平均値に対して12.0%)増加した(統計的に有意)。

  • 出生順に分けると、第1子は平均値に対して9.8%増加、第2子は13.1%増加し、制度により支給額が手厚かった第3子以降の出産の反応が大きかったため、第3子以降は24.7%増加した。

  • 15-34歳の女性がいる世帯に6歳未満の子どもがいる確率は、出産後1年目の受給額が1000カナダドル増加すると、平均値に対して16.9%増加し、出産後5年間の総受給額が1000カナダドル増加すると、平均値に対して2.6%増加することがわかった。

文献選定/レビュー作成

  • 藤本 一輝(東京大学)

背景

  • 経済的動機付けにより出産行動がどのように反応するかは、今までも外生的な政策変更を用いて分析されてきた。
  • しかし、欠落変数などの実証的な問題が認められる先行研究も多い。例えば、同じ政策変更に着目したDuclos, Lefebvre, and Merrigan (2001)はデータに母親や家族の情報が含まれていない。

介入

カナダ・ケベック州において、1988年5月1日から1997年9月30日の間に新生児が生まれた、または5歳未満の養子を迎えた居住者に対して非課税で以下の額の現金が支給された。

  • 第1子は誕生時に500カナダドル(1988年当時で約5万円)支給。
  • 第2子は誕生時に500カナダドル支給、1989年5月以降はそれに加え、1歳の誕生日にも500カナダドル支給。
  • 第3子以降は、以下のように支給額が増えていった。
  • 1988年5月以降:四半期ごとに375カナダドル、2年で総額3000カナダドル(約30万円)
  • 1989年5月以降:四半期ごとに375カナダドル、3年で総額4500カナダドル
  • 1990年5月以降:四半期ごとに375カナダドル、4年で総額6000カナダドル
  • 1991年5月以降:四半期ごとに375カナダドル、5年で総額7500カナダドル
  • 1992年5月以降:四半期ごとに400カナダドル、5年で総額8000カナダドル(8000カナダドルは、5歳までの直接的な子育て費用(1年あたり5324カナダドル、5年で26620カナダドル)の30%程にあたる)

評価指標

  • 合計特殊出生率。
  • 15-34歳の女性がいる世帯が6歳未満の子どもを持つか否か。

分析方法

人口動態統計を用いた分析

  • グラフ化:ケベック州を介入群、カナダの他の州を対照群として1980年から2000年までの合計特殊出生率をグラフ化して横断比較する。
  • 年齢層別出生率の比較:年齢層ごとのコーホート出生率(ある年に生まれた女性が15-49歳で出産した子どもの平均人数)を比較することで、出生率に対する永続的な効果を検証する。
  • 回帰分析:ケベック州を介入群、カナダの他の州を対照群として差の差分析の枠組みを用いて回帰する。全体、第1子、第2子、第3子以降の4つの合計特殊出生率を被説明変数とする。
  • 制度期間中のケベック州では、①中絶の合法化、②ケベック州に対してカナダが移民に関する権限を与えた、という2つの変化が起きた。しかし、中絶数の増加はわずかであった。移民に関しては、移民を除外した分析を行っても、有意差のない推定値が出ることが確認されている。

国勢調査を用いた分析

  • 基本の回帰分析:ケベック州を介入群、カナダの他の州を対照群、1991年国勢調査を介入前、1996年国勢調査を介入後、15-34歳の女性がいる世帯が6歳未満の子どもを持つか否かを被説明変数として、差の差分析の枠組みで分析をする。すでにいる6歳以上の子どもの数でサンプルをわけることで、どの出生順への影響が大きいか分析する。
  • 給付額に関する回帰分析:給付額のドル換算値を説明変数として回帰分析を行い、1000カナダドルの受給額増に対する反応を調べる。給付額には出産後最初の1年間の給付額と出産後5年間の給付総額という2つの指標を用いる。

証拠の強さ

  • SMS:1(人口動態統計を用いた分析)、SMS:3(国勢調査を用いた分析)

  • 根拠

    • 人口動態統計を用いた分析

      • 論文執筆時点でコーホート出生率は完成しておらず、確定的な結果とは言えない。
      • 回帰分析において、制御変数を特に指定していない。
    • 国勢調査を用いた分析

      • 差分の差分析をする際、女性とその配偶者の年齢・最終学歴・母国語・移民か否か、女性の収入を除いた世帯年収、住んでいる州をコントロールしている。

サンプル

  • 人口動態統計より1980年から2000年までの合計特殊出生率。
  • 1991年と1996年のカナダ国勢調査の公共利用ファイル。 調査日前5年間に州をまたいだ移動をしていない15-34歳の女性がいる家庭を抽出している。

結果

  • 全体の合計特殊出生率は、政策を導入しなかった場合と比べて0.145%ポイント(平均値に対して9%)増加した(統計的に有意)。出生順位別にみると、第3子以降の反応が大きかった。
  • 出産一時金導入後2-8年で15-34歳の女性がいる世帯に6歳未満の子どもがいる確率は、政策を導入しなかった場合と比べて5.3%ポイント(平均値に対して12.0%)増加した(統計的に有意)。
  • 出生順で分けると、それぞれの平均値と比べて第1子が9.8%増、第2子が13.1%増、第3子以降が24.7%増と、制度により支給額が手厚かった第3子以降の出産の反応が大きかった。
  • 15-34歳の女性がいる世帯に6歳未満の子どもがいる確率は、出産後1年目の需給額が1000カナダドル増加すると平均値と比べて16.9%増加、出産後5年間の受給総額が1000カナダドル増加すると2.6%増加するとわかった。

研究の弱点

  • 国勢調査の実施が5年おきであるため、介入前として用いている1991年国勢調査も部分的に出産一時金導入の影響を受けている。その課題を解決するため、Malak, N., Rahman, M. M., & Yip, T. A. (2019)では誕生年まで明らかになっているデータを用いて同様の分析を行っている。

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