保育施設の利用料引き下げ
スウェーデンにおいて保育施設の利用料引き下げが出生率に与えた影響
- 評価指標
出生率
- 評価指標
第2子以降の出産時期
ポイント
文献選定/レビュー作成
背景
- スウェーデン政府は1998年の選挙公約として保育施設の利用料の引き下げを約束し、2002年に実施した。
- スウェーデン女性の労働参加率は男性比で約88%と高く、また公的補助つきの保育施設の利用率も高い。
- この改革の目的は以下の3つであった:
- すべての子供に等しい早期教育の機会を与えること
- 小さな子供を持つ家庭の経済状況を向上させること
- 親の労働参加を推し進めること
介入
- 2002年に施行された改革によって、保育施設の利用料が引き下げられ、また標準化により利用料の地域差が縮小された。
- 引き下げ額は地域や家庭により異なるが、改革前の1999年に、2人の親と、2人の就学前児童がいる中所得世帯の保育料の中央値がSEK 2,660 (400 USD) だったのに比べて、改革後の2002年には、そのような家庭の平均保育料支払額はSEK 1,900 (260 USD)に下がった。
評価指標
分析方法
- 差分の差分法。
- 引き下げ率に地域差があることを用いて、保育料の引き下げによる出生率の変化を分析した。
- 保育料は家庭の属性 (10歳未満の子供の数と年齢、世帯収入により区分) と地域から推定し、異なる地域の同じ属性の家庭で保育料の引き下げ額と出生率の変化割合を比較した。
証拠の強さ
- SMS: 3
- 根拠
- 地域によって改革前後の保育料の引き下げ率が異なることを利用して、差分の差分法により分析をしている。
- 分析に政策マニフェスト発表前の1997年のデータを含めて、パラレルトレンドの仮定が満たされていることを確認している。
サンプル
- 対象はスウェーデンの全世帯。
- 子供を持たない未婚女性、シングルマザー、子供の父親ではないパートナーと同棲している独身女性はサンプルに含まれていない。
- データは労働市場政策評価研究所、スウェーデン統計局、スウェーデン公共雇用サービスセンターから収集された。
- 用いられたのはすべて年次データである。
- 分析対象期間は1997年から2003年。
- 分析は子供を持たない世帯と既にいる世帯とで区別して行われ、用いられたサンプルサイズはそれぞれ子供を持たない世帯が44,876、既に子供がいる世帯は628,036だった。
結果
- 改革により保育料が平均してSEK 111,000 (16,850 USD) 引き下げられた。保育料の引き下げ額が平均的であった家庭において、この引き下げにより第1子の出生率が9.8%上昇した。
- 改革前の1997年の子供がいない1000世帯当たりの出生数は142.66であったが、改革案が国会で可決された2000年の出生数は164.62に上昇した。
- 子供が既に1人いた世帯では出生率の変化は見られず、またさらに第2子の出産を延長する傾向が見られた。
- 既に子供が2人以上いた世帯では保育料の引き下げ額は世帯収入の18%に至り、第3子以降の出生率は14.5%上昇した。ただし、既に子供が2人以上いた世帯では出生率を減少させる負の所得効果の影響が見られ、出生率の上昇はかろうじて有意であった。
- 特に低所得世帯で出生率の上昇率が大きく、また出産のタイミングを改革に合わせる傾向が見られた。
- この政策を発案したスウェーデン社会民主労働者党の支持率が高い自治体の方が、支持率が低い自治体に比べて第1子の出生率が大きく上昇した。
研究の弱点
- 政策施行の翌年までの影響しか分析できていないため、それ以降の長期的な影響は評価できていない。
- スウェーデンでは第1子のおよそ3分の2は婚外子であるが、この研究の第1子についての分析ではデータの都合上結婚している夫婦の間に生まれた子供しか対象にできていない。
書誌情報
- Mörk, E., Sjögren, A., & Svaleryd, H. (2013). Childcare costs and the demand for children—evidence from a nationwide reform. Journal of Population Economics, 26(1), 33-65. https://doi.org/10.1007/s00148-011-0399-z