子育て支援政策の違い
基礎自治体間で異なる子育て支援政策が出生行動に与えた影響
- 評価指標
出生率
ポイント
自治体の子育て支援政策は、内容によっては出生率に影響を与えることが確認された。
特に、地域子ども・子育て支援事業は、すでに子どもがいる、夫の年収が400万円未満の家庭において出生確率を引き上げる効果があった。
母子保健に関する事業は、3歳以上の子どもがいない、夫の年収が400万円を超える家庭において出生確率を増加させた。
文献選定/レビュー作成
背景
- 多くのOECD諸国では1970年代から出生率が低下しており、各国で様々な出生率向上を目的とした政策が実施されている。日本でも少子化は深刻な問題となっており、政府や地方自治体が様々な支援策を講じている。
- これまでの多くの研究では、現金給付を伴う政策の効果が検証されてきたが、非現金給付型の政策の効果については十分に定量的な検証が行われていない。
- 現金給付型および非現金給付型の双方を含む幅広い少子化対策の効果を定量的に検証し、効果の大きい政策を特定することの必要性が高まっている。
介入
- 自治体が実施する現金給付型および非現金給付型の子育て支援事業 -児童手当、乳幼児・子ども医療費助成、母子保健、保育サービス、地域子ども・子育て支援の事業- のために各自治体が支出した費用を、その自治体における15歳以下の子ども1人当たり支出額に換算したものを説明変数としている。
評価指標
分析方法
証拠の強さ
- SMS:3
- 本研究は対象となる個人の属性や自治体の属性などの要因をコントロールしており、妻の就業選択や居住地選択の内生性によるバイアスにも対応している。
サンプル
- 総務省統計局「平成16年全国消費実態調査」を利用。
- 関東、中京、京阪神、北九州・福岡の4大都市圏に居住する16~49歳までの妻のいる5,587世帯
結果
- 自治体の子育て支援策は政策の種類や家庭の収入レベル、子どもの有無により効果が異なることが確認された。
- 地域子ども・子育て支援事業の支出が10%高いと、3歳以上の子どもがいる、夫の年収が100万円未満の家庭では29.4%、100万円以上200万円未満では26.2%、200万円以上300万円未満では13.2%出生確率が有意に高い。
- 母子保健事業の支出が10%高いと、3歳以上の子供がいない、夫の年収が400万円以上の家庭で出生確率が50.1%から87.8%ほど高い。
研究の弱点
- なぜ一部の子育て支援事業しか効果がなかったのか、理由が不明である。事業内容の詳細や実施方法の違いが結果に影響を与えている可能性があるため、これらの情報をもとに検証する必要がある。
書誌情報
- Nakajima, R., & Tanaka, R. (2014). Estimating the effects of pronatal policies on residential choice and fertility. Journal of The Japanese and International Economies, 34, 179-200. doi:10.1016/j.jjie.2014.07.001
- 田中隆一 & 中嶋亮. (2015). 子育て支援政策が居住地選択と出生行動に与える影響について. 住宅土地経済 / 日本住宅総合センター [編], 98, 20–27.