背景
- 海外に留学する学生の数はここ数十年で増加し、各国の政府も情報発信や金銭的支援によって学生の留学を奨励してきた
- しかし、誰が留学するかは個人の性格や希望によって決定されるため、留学の因果効果は単純な比較ではわからない
- 留学の因果効果は測定が難しいうえ、特にアジア圏の学生で検証したものが非常に少ない
- 本研究では事業実施前から事業者と研究者が協働することで留学の因果効果測定および奨学金の効果検証を行った
介入
海外留学奨励を目的とした奨学金の支給
評価指標
2018年1月の選考面接時に実施したベースライン調査の後、2019年10月と2020年6月に追跡調査を行った
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奨学金が留学に与える影響
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留学(4週間)が学生に与える効果
- 語用論的な英語力を測る試験のスコア(12段階)
- 応用言語学において将来の言語能力の発達を決定づけるとされている要素
- 国際的指向性(6段階)
- 自己がどの程度世界と関わっているのかを表す個人の態度や性格
- 以下4項目の回答の平均
- 国際的な問題について意見を持っている
- 日本の身近な地域に住む外国人を助けるボランティア活動に参加したい
- 日本の学校に留学生がいれば話をしたい
- 外国のニュースをよく読んだり見たりしている
- 外国語コミュニケーション能力の認知(0~100)
- 以下の4つの場面において、訪問国で使う言語でどの程度コミュニケーションができると思うかを0%(全くできない)から100%(とてもできる)まで尋ねて回答、分析にはその平均値を利用
- 友達同士で話す
- 初めて参加した会議で話す
- 初めて会った人と話す
- 大勢の知らない人の前で発表する
分析方法
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奨学金が留学に与える影響
- 選考時のスコアの基準値付近にいる学生で基準値を超えたかどうかと留学期間の関係を見ている
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留学(4週間以上)が学生に与える効果
- ファジーな回帰不連続デザイン
- 奨学金受給のための選考時のスコアが基準値以上かどうかを留学する確率を予測する操作変数としたうえで、基準スコアの近くでは、合否がほぼランダムに決まる状況を利用した
証拠の強さ
- 奨学金が留学に与える影響
- 4
- 選考時のスコアの基準値付近中にいる学生で基準値を超えたかどうかとアウトカムの関係を見ている
- 選考時のスコアの基準値付近で候補者の属性のうち観察可能なものについては統計的に有意な差はないことを確認している
- 基準値を超えるかどうかは基準値付近においては準ランダムであると考えることができる
- 留学(4週間以上)が学生に与える効果
- 4
- 選考時のスコアの基準値付近で候補者の属性のうち観察可能なものについては統計的に有意な差はないことを確認している
- スコアの恣意的な操作がないことも確認している
サンプル
- トビタテ!留学JAPANに応募した日本の大学等に在籍している大学生・大学院生のうち書類選考を通過して面接を受験した709名
- サンプル学生709人のうち、男性は48%、国公立大学在籍者は67%、東京都内の大学在籍者は38%
- このうち451名が面接選考を通過して奨学金を受給し、258名が面接選考を通過しなかった
結果
()内には効果の大きさが標準偏差の何倍にあたるかを記している
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奨学金が留学に与える影響
- 奨学金によって学生の留学する確率が38パーセントポイント上昇している(奨学金非受給者の留学する割合:0.45)
- 奨学金によって4.8ヶ月長く留学している(奨学金非受給者の平均値:3.58か月)
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留学(4週間以上)が学生に与える効果
- 英語力 33%(1.15標準偏差)上昇
- 国際的志向性 14%(0.68標準偏差)上昇
- 外国語コミュニケーション能力の認知 43%(1.14標準偏差)上昇
- 上記の3指標について、留学の効果は応募時の英語力が低い学生の方が大きい
研究の弱点
- いくつかの指標が自己申告に基づくものであること
- 留学の非認知能力への影響が観察されなかったことが本当に効果がなかったことを意味するのか、留学で異質な学生と触れ合うことで回答者自身が非認知能力を比較する対象が変化したことにより影響しなかったように見えているだけなのかが不明
- トビタテ!留学JAPANに応募した学生間で留学の効果を検証しているため、この研究結果がどこまで他の学生に適用できるかは不明
書誌情報
- Higuchi, Y., Nakamuro, M., Roever, C., Sasaki, M., & Yashima, T. (2023).Impact of studying abroad on language skill development: Regression discontinuity evidence from Japanese university students Journal of The Japanese and International Economies,70, 101284
- Yashima, T., & Zenuk-Nishide, L. (2008). The impact of learning contexts on proficiency, attitudes, and L2 communication: Creating an imagined international community. System, 36(4), 566-585.
- 平成30年度官民協働海外留学支援制度~トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム~募集要項(大学全国コース)
- 平成30年度官民協働海外留学支援制度~トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム~募集要項(大学オープンコース)