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教員給与引き上げ

インドネシアにおける小中学校教師の給与引き上げが教師や生徒に与える影響

評価指標

効果

証拠の強さ

評価指標

教師の収入に対する満足度

効果
証拠の強さ
評価指標

教師の経済的ストレス

効果
証拠の強さ
評価指標

教師の副業の有無と副業に費やした時間

効果
証拠の強さ
評価指標

教師の担当教科に対する理解度

効果
証拠の強さ
評価指標

教師の欠勤

効果
証拠の強さ
評価指標

生徒の学業成績

効果
証拠の強さ

ポイント

  • インドネシアの小中学校の教師の給与引き上げ(職業手当として基本給の100%相当を支給)の効果について、2009年から2012年にかけて検証した。

  • 教師の給与に対する満足度は増加し、副業に従事する教師の割合が減少したが、担当教科の理解や欠勤には有意な影響がみられなかった。

  • 生徒の成績については、数学、国語、理科のいずれの科目についても有意な影響が見られなかった。

文献選定/レビュー作成

  • 平野咲子(パリ政治学院公共政策大学院)

背景

  • インドネシアでは、公立学校教師の質とやる気の課題に取り組むため、2005年に教師法改正を含む教育改革を開始した。教員給与の引き上げは、この改革の目玉として打ち上げられたもの。
  • 公共セクターにおける給与引き上げが職員のやる気や生産性に与える影響を検証した研究は限定的である中、本研究は教育セクターに焦点を当てている。
  • 過去の研究の多くは、無条件の昇給ではなく業績連動型のボーナスプログラムの効果検証が中心。

介入

  • 教師の給与引き上げ
    • 職業手当として基本給の100%相当を追加支給。
    • 適格基準を満たす教師で、認証手続きを通過した者が対象。
      • 適格基準:公務員教師であり、4年制大学の学位または公務員としての一定以上の職位に就いている教師(通常は長年の勤務によって得られるステータス)。
      • 認証手続き:各教師が作成したポートフォリオ(教材や業績をまとめたもの)を審査するもの。実際ポートフォリオ審査に不合格となった者は非常に限定的であり、一度不合格の教師も、2週間のポートフォリオ作成に関する追加トレーニングを受けた後認証されるなど、極めて緩い運用が行われていた。
    • 施策の対象となる順番は、教師の勤続年数によって決定。
    • 本施策は認証手続きにかかる大きな財政負担を考慮し、2006年から2015年の10年間にわたり段階的に導入された。
    • 本施策により、大学卒業者の給与分布において、教師の給与は上位50%から上位10%へと引き上げられた。なお、昇給以前よりインドネシアの公務員教師は手厚い福利厚生と高い雇用保障を享受しており、離職率は昇給前でも極めて低水準であった。

評価指標

  • 教師の福祉・生産性・やる気に関する指標:
    • 総収入に対する満足度(自己申告)
    • 経済的ストレス(自己申告)
    • 副業の有無と副業に費やした時間(自己申告)
    • 教師の担当教科に対する理解度(教師を対象としたテストの成績)
    • 欠勤の有無(過去一週間で少なくとも一回欠勤したか、自己申告)
    • 生徒の学習成果に関する指標:
    • 生徒の学業成績(数学、国語、理科)

分析方法

  • ランダム化比較試験(RCT)
    • 段階的導入により、施策に適格な教師も実際に受益するまで数年待つ必要があり、この状況を生かし、RCTが導入された。
    • 介入群としてランダムに120校を選択し、同群における全ての適格教師に職業手当を支給。一方、対照群240校の教師については、通常の施策どおり段階的に導入を実施した。

証拠の強さ

  • SMS:5:
  • 根拠
    • 導入前において、各種指標で介入群と対照群の間に有意差がないことを確認(生徒数、教師数、学級数、教科数、教師に課したテストの点数、資格の有無、基本給、副業の有無)。

サンプル

  • インドネシア全土の360校(うち、小学校240校と中学校120校)が対象。
  • まず、国の5つの主要地域で層別化し、人口が多い地域にはより多くの地区を割り当てた上で、ランダムに20の地区を抽出。さらに、各地区内で学校を教師の人数に基づいて層別化し、各地区から12の小学校と6の中学校を抽出。
  • 行政データの他、教師へのインタビュー調査、生徒への調査とテスト、校長へのインタビュー調査を活用。

結果

  • 教員の総収入に対する満足度は上昇し、経済的ストレスは軽減され、副業に従事する教師の割合が減少した。
  • 教師の担当教科の理解や教師の欠勤には有意な影響がみられなかった。
  • 生徒の成績については、数学、国語、理科のいずれについても有意な影響が見られなかった。生徒が介入群の学校に在籍することによる影響も、給与が増加した教師による指導を受ける影響もほぼゼロであった。

研究の弱点

  • 本研究は短期間の観察結果を対象としており、長期的な影響については別途検証が必要。

書誌情報

  • de Ree, J., Muralidharan, K., Pradhan, M., & Rogers, H. (2018). Double for Nothing? Experimental Evidence on an Unconditional Teacher Salary Increase in Indonesia. The Quarterly Journal of Economics, 133(2), 993–1039.

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