背景
- 2015年の国連サミットで、2030年までに持続可能な世界を目指すSDGsが採択された
- SDGsは中高生にとっても重要な社会課題であり、探求学習のテーマに選択する学校が増えている
- また、2020年より実施された学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」が強調されている
- これらを背景に、生徒が環境問題に主体的に取り組む態度を育む探求型環境教育プログラムを開発し、その有効性を検証した
介入
介入群は2021年2月に以下の45分の環境教育プログラムを受講
- 環境問題の重要性に関する授業(15分)
- 「ごみゼロゲーム」(20分)
- プラスチックごみ(以下、プラごみ)削減に特化したボードゲーム
- 一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパンと共同で開発
- 講義やゲームの振り返るディスカッションと振り返りシートの記入(10分)
- 振り返りシートは4種類あり、生徒ごとにランダムに配布
- 「ナッジ、ブーストなし」:プログラムの感想を自由記述で回答
- 「ナッジのみ」:レジ袋、無料のウェットティッシュ、ペットボトルをそれぞれ今後どのくらい捨てないように努力するかを目標設定
- 「ブーストのみ」:環境問題の当事者(プラごみを誤飲した魚)への共感を喚起する心理的介入
- 「ナッジとブースト両方」:目標設定、心理的介入の双方
評価指標
介入前の2020年10月にベースライン調査、介入後の2021年3月にエンドラインの調査を行い、以下の項目を測定した
- 知識:正誤問題の正解数
- 向環境行動(レジ袋、ウエットティッシュ、ペットボトルの使用)
- 環境問題への意識(プラごみによる汚染、省エネ)
- 自然の保護や活用に対する態度
- 生徒自身または他者の環境に対する責任感
- 生徒自身または他者の環境に対する統制の所在
分析方法
- ランダム化比較試験
- 環境教育プログラムの実施・非実施はクラス単位でランダムに割当
- ナッジやブースト、またはその両方の介入は生徒ごとにランダムに割当
証拠の強さ
サンプル
結果
- 環境問題の知識は環境教育プログラムだけで向上
- プラごみ問題への関心はナッジによって増加するが、ブーストのみでは増加しなかった
- 環境教育プログラムで扱わなかった省エネへの関心は増加しなかったことから、プラごみ問題に特化した効果があったことと他の環境問題に効果が波及しなかったことが確認された
- ナッジやブーストによって一部の向環境行動が促進された
- ウェットティッシュについては利用を控える効果が確認されたが、レジ袋やペットボトルについては強い利用削減効果は確認できなかった
- 行動が変わるのはそのコストが低い場合に限られると考えられる
- 環境教育プログラムが自然の保護や活用に対する態度や環境への責任感、環境の統制の所在に強い影響を与えたという結果は確認されなかった
- 自己の環境への責任感と他者への環境の統制の所在への影響は有意に正であった
- どの分析においても学力による効果の異質性は認められなかった
研究の弱点
- 一部指標に効果が見られなかったのは、サンプルサイズが小さかったことによるものか、そもそも効果がなかったのかが不明である
- この実験に協力した学校は環境教育に前向きな学校であると考えられる
- このような学校の生徒はもともと環境問題に対する意識が高かった可能性があるため、環境問題に対する意識が低い生徒に対して同様の効果が現れるとは限らない
- 向環境行動や態度のデータは自己申告であるため、効果を過大に推計している可能性がある
- 長期的な効果は本研究では不明
書誌情報
- Kurokawa, H., Igei, K., Kitsuki, A., Kurita, K., Managi, S., Nakamuro, M., & Sakano, A. (2023). Improvement impact of nudges incorporated in environmental education on students’ environmental knowledge, attitudes, and behaviors. Journal of Environmental Management, 325, Part B, 116612.
- 黒川博文・伊芸研吾・木附晃実・栗田健一・馬奈木俊介・中室牧子・坂野晶 (2022). 「環境教育の効果を高めるナッジ」, RIETIノンテクニカルサマリー.