教員の給与の違い
予算の制約がある中で教員に高い給与を支払うことが生徒の学業成績に与える影響
- 評価指標
生徒の学業成績
- 評価指標
教員の欠勤率
ポイント
同じ予算内で教員に高い給与を支払う必要があった学校では、教員の数は減らさず、その他の支出を削減し対応していた。
教員に高い給与を支払っている小学校では教員の欠勤率が低かった。
予算を増やさずに教員の給与を引き上げ、その他の支出を削減した結果、生徒の学業成績には影響を及ぼさなかった。
文献選定/レビュー作成
背景
- 英国を含む先進国では、学校が予算の使い道に関してより大きな権限を持つようになっている。
- 生徒の学習効果を最大化するために、限られた予算をどのように使うのが最も効果的かを検証する必要性が高まっている。
- 教員の給与だけでなく、学校の予算全体を引き上げる政策は、生徒の学業成績に良い影響を与えるという結果が過去の研究で示されている。
- 一方で、予算を一定に保ったまま給与を上げた際の影響について検証した研究は少ない。
介入
評価指標
分析方法
- 回帰不連続デザイン
- イングランドでは政府が地域ごとの生活コストの差に対応するため、国内を4つのエリアに分けそれぞれ異なる給与体系を設定している。そのため、「ロンドン周縁部 (Fringe)」に分類される学校の教員には「その他の地域」に分類される学校の教員より5%ほど高い給与が支払われている。
証拠の強さ
- SMS:4
- 「ロンドン周縁部 (Fringe)」と「その他の地域」の境界線の近くにおいては学校の予算や教員の生活コスト、コミュニティの面で差はないと想定される。
- 境界線の内外で特別支援が必要な生徒の割合と学校の社会経済的指標の値に有意な差はあるものの、予算の額や生徒の学力テストのスコアなどの重要な変数はバランスしていることが確認されている。
サンプル
- ロンドン周縁部とその他の地域との境界線上に位置する238の小学校が対象。
- 介入群(ロンドン周縁部の給与水準が高いエリア): 111校
- 対照群(その他の給与水準が低いエリア): 127校
- イングランド教育省全国学生データベース、地方教育機関学校情報サービス(LEASIS)および財務報告データ(CFR)から2006-11年のデータを取得。
結果
- 介入群と対照群の学校それぞれの生徒の英語と数学のスコアの間に統計的に有意な差は確認されなかった。
- 介入群の学校では、教員の欠勤率が対照群と比較して12%ほど低かった。
- 教員に高い給与を支払う必要のある地域では、教員の人数を減らすのではなく、施設の維持管理や備品購入などの支出を抑えていた。
研究の弱点
- 用いられたデータでは教員と生徒とを紐づけられておらず、教員の質や特定の教員が生徒に与えている影響など教員レベルでの分析を行えていない。
- 本研究では、回帰不連続デザインを用いて、予算の制約がある中で教員に高い給与を支払っても学力には影響を与えないことを示している。ただし、この因果関係はロンドン周辺地域と他の地域の境界に位置する学校では成り立つものの、他の国や地域でも同じように成り立つとは限らない点に注意が必要である。
書誌情報
- Greaves, E., & Sibieta, L. (2019). Constrained optimisation? Teacher salaries, school resources and student achievement. Economics of Education Review, 73, 101924. https://doi.org/10.1016/j.econedurev.2019.101924