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地方自治体の予算査定業務におけるナッジ

地方自治体の職員の仮想的な予算査定業務に対して損失フレームや社会比較といったナッジが及ぼす効果

評価指標

効果

証拠の強さ

評価指標

前年度予算比(損失フレームナッジ)

効果
証拠の強さ
評価指標

前年度予算比(社会比較ナッジ)

効果
証拠の強さ
評価指標

前年度予算比(ナッジなしの情報提供)

効果
証拠の強さ

ポイント

  • 一般的に行政の予算編成担当者は事業の将来における成果を過小評価する傾向にある。

  • 将来の成果についての情報があってもその情報が活用されるとは限らない。

  • ナッジに基づいた介入(損失フレームナッジと社会比較ナッジ)によって担当者は将来の成果に基づいて長期的な政策事業への予算配分を増加させた。

  • 将来指向の投資の重要性を意思決定者に説得する際にナッジを利用することが有効である可能性が示唆された。

文献選定/レビュー作成

  • 辻本篤輝(一般社団法人エビデンス共創機構)

背景

  • 人間は将来における利得を割り引いて評価する傾向がある(この傾向を時間割引とよぶ)。
  • 行政職員は、時間割引によって目先のコストがかかる一方で長期的にしか成果を生まない事業を過小評価する可能性がある。
  • 長期的な効果について十分な根拠が存在する場合であっても、効果が過小評価されたために当該事業への予算割り当てが必要以上にためらわれる可能性がある。

介入

  • 全国の地方自治体の予算編成担当者に対して、質問紙を送付した。

  • 質問紙では財政制約の厳しい自治体の予算編成担当者として新しい事業の予算査定をするという仮想のシナリオを提示した。

    • 新事業ではこれまで実施してきた家庭向けCO2削減事業に加え、新たに家庭用照明のLED化にかかる費用の補助を行う。
    • すべての質問紙において、これまでのCO2削減事業の予算と実績(世帯数とCO2削減量)、および新年度の予算要求額(500万円)の情報が与えられた。
  • 回答者をランダムに以下の4群に割り当て、仮想の環境政策事業の予算を査定してもらった。

    • ベースライン群(A群):新たな予算によるCO2の予測削減量の情報を提示した。
    • 損失フレームナッジ群(B群):新事業の非実施による損失を強調した。
      • 「本事業を実施しない場合、R2年以降延べ1,500トン(t)CO2の削減機会が失われます (1世帯当たり1.5t×1,000世帯を想定)」
    • 社会比較ナッジ群(C群):近隣自治体で炭素削減に成功した先行事例を提示した。
      • 「近隣同規模の自治体Aおよび自治体Bでは同事業が先行実施されており、延べ1500tのCO2削減を実現しています」
    • 対照群(D群):将来の成果に関する情報を提供しなかった。
  • 回答者は上記の情報をもとに仮想の環境政策事業の予算を査定した。

評価指標

  • 予算の前年度比
    • 新年度の査定額(回答者が得た情報をもとに、どの程度の予算を認めるかを回答した額)を 今年度の予算額(300万円)で割った比率。

分析方法

  • 層別ランダム化比較試験
    • どのような情報提供をするかは地方公共団体の種類(政令指定都市・特別区・中核市・市・区・町・村)別にランダムに割当が行われている。

証拠の強さ

  • SMS:5
  • 根拠
    • 地方公共団体の種類別にランダムに割付を決める層別ランダム化比較試験を行っているため。
    • 割付グループ間で自治体の特徴に差がないことをバランスチェックによって確かめている。
      • バランスチェックの詳細についてはあまり述べられていない。

サンプル

  • 日本の地方自治体の予算担当者484名
    • 2019年12月10日に全1741自治体の財政・予算部門に属する予算担当者に質問紙調査を送付し、2020年1月10日に回答を締め切った。
    • 521の回答があり(回答率30%)、欠損を除いた484の回答を使用した。
    • 回答自治体と無回答自治体で公務員数(対数)、総人口(対数)、人口変化率、財政指数、公債比率、財政収支比率に統計的に有意な差がないことを確認している。

結果

  • 将来の成果情報を提示するだけのA群では、前年度と変わらない額面の査定をした。
  • 対照群(D)はA群より高い査定を行ったが、その差は10%で有意、もしくは統計的に有意なものではなかった。
  • ナッジに基づくメッセージ群(B・C)の予算担当者は、ナッジなしのベースライン群(A)の担当者と比べて新事業について高い額の査定をし、その額面の差は統計的に有意であった。
    • 損失フレームナッジ群(B)は約9.6%(約28.8万円)高く、社会比較ナッジ群(C)は約7%(約21万円)高かった。
    • ナッジによって未来志向の予算編成が行われるようになった。
  • 損失フレームナッジは、時間割引率が高い担当者の予算査定に特に強い影響を与えた。

研究の弱点

  • 仮想のシナリオに基づく実験であり、現実の予算編成においてナッジが本研究と同程度の効果があるとは限らない点
    • 実際の地方自治体の予算編成担当者は、予算要求をする各部局等から多くの情報にさらされているため、他の情報の影響を受ける可能性がある。
  • 実験が行われているのは環境政策についてのみである点。
    • 他の政策分野(教育・医療・福祉など)への適用可能性は、今後の研究で検証する必要がある。
  • 本文中の回帰表(Table3)やappendix(The group-specific experimental contents)において列や行のずれがあるので注意が必要である。

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