若年層に対する選挙啓発葉書
投票を促す選挙啓発葉書が若年層の投票率に与える影響
- 評価指標
若年層の投票率
ポイント
文献選定/レビュー作成
背景
- 日本に限らず先進国全体で若年層の投票率が低下しているため、効果的な選挙啓発の方法が各国で模索されている。
- 海外の研究ではダイレクトメールによる選挙啓発が投票率に大きくはないものの正の効果を与えると指摘されている(Green & Gerber 2015)。
- 日本を含め、選挙啓発の効果検証において通常使用される投票記録やランダム化比較試験は、プライバシー保護や公平性の観点から忌避されることが多い。
- 日本で選挙啓発の効果検証を行うには、公平性やプライバシー保護に配慮した方法で行う必要があった。
- このため、個人を特定できない誕生週ごとの投票率を用いることで、若者向けの選挙啓発葉書を送付し、自治体と共同して効果検証をおこなった。
介入
- 2022年7月10日に投開票された参議院議員選挙の選挙運動期間中に3回(6月21日・6月29日・7月5日)選挙啓発葉書を郵送し投票を促した。
- 同年6月1日時点で満18歳の豊島区在住の有権者1417人を介入の対象とした。
- 葉書には投票期間や投票場所、問い合わせ先などの情報とともに以下のメッセージが記されている(〇〇の中に自身の投票日や投票所を記入するようになっている)。
- 1回目:「忘れずに、あなたの投票予定日を書いてみてください:私は〇〇月〇〇日に投票します。」
- 2回目:「忘れずに、あなたの投票予定日を書いてみてください:私の投票所は〇〇です。」
- 3回目:「あなたの投票予定と投票所を書いてみてください:私は〇〇月〇〇日〇〇時頃に〇〇投票所で投票します。」
- この介入においては研究者が個人を特定できる情報を利用せず、介入によって特定の世代に著しい利益や不利益が生じないためプライバシー保護や公平性を守ることができている。
評価指標
分析方法
- 回帰不連続デザイン(RD)
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誕生週ごとの投票率を用い、誕生週を割当変数、2003年の6月2日と6月3日の間、2004年の6月2日と6月3日の間の2点をカットオフとして用いた。
- 2022年6月1日時点でぎりぎり19歳になっていない18歳の有権者の投票率とぎりぎりで19歳になった有権者およびぎりぎりで18歳になっていない17歳の有権者の投票率を比較した。
- 選挙管理委員会は、住民登録に基づき選挙権のある住民を3ヶ月ごと及び選挙直前に選挙名簿に登録する。
- 今回の選挙前には、それぞれ6月1日時点・7月10日時点の情報に基づいて6月2日・6月22日に登録が実施された.
- 選挙直前である6月22日の情報に基づいて介入群ヘの啓発葉書送付の準備を行うことは選挙管理委員会にとって負担過多であったため、6月1日時点の情報に基づいて葉書の送付が行われた。
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カットオフの近辺で生まれた人にとってカットオフの前に生まれたか後に生まれたかは本人の意図と関係なく「たまたま」決まるので、介入群と対照群の差は介入を受けたかどうかだけであると考えられる。したがって、 介入群と対照群の投票率の差は介入を受けたかどうかだけによるものだといえる。
証拠の強さ
- SMS:4
- 根拠
- 誕生週を割り当て変数とした回帰不連続デザイン(RD)を使用している。
- カットオフ付近で人数の不自然な増減が起こっていないかの確認も行っている。
- 2つのアプローチでRDを行ったり感度分析を行うなど様々な頑健性の確認が行われている。
サンプル
- 2022年6月1日時点で17~19歳だった東京都豊島区の有権者3,319人
- 介入群:18歳(1417人)
- 対照群:選挙日までに18歳になる17歳(149人)・19歳(1753人)
- 2022年時点の日本では選挙日当日に18歳以上である国民に選挙権が存在する。
結果
- 選挙啓発葉書が若年層の投票率に与える影響は統計的に有意なものではなかった。
- 介入群の方が投票率が低い傾向が見られたが、この効果は統計的に有意なものではないことに注意が必要である。
研究の弱点
書誌情報